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2019年03月01日

逆視点から

 

オーガニックや非遺伝子組換えなど、エコ農業論者の主張に真っ向からガチンコ勝負した本です。

 

そう、私のような人間が読まなければいけない本です。

どうしても私はオーガニックな生産者の事を書いた本や記事を読みがちですが、何事も偏ると良いことありません。

この本は本屋をブラブラしていたらたまたま目に入って立ち読み、そのままお持ち帰りという本屋ならではの好きなパターンです。

こういうのはアマゾンでは逆にオヌヌメ本として出てくることないので、やはり本屋に行かなくてはいけないな、という事です。

 

著者はコンサル業界から農業と畜産をメインにした専業農家に転身し、昨今のエコブームや農協解体論を都市伝説かと言わんばかりにバッサリ切り捨てます。

そこには丁寧なコンサルタントならではの細やかな考察とエビデンスを用いた理路整然としたロジックで淡々と間違った農業に対する誤解を一つ一つ解き明かしていきます。

 

農業と一口に言っても、農業全体を把握している人間は誰一人として無く、トマトと米は全く違うプロセスで、養鶏と鶏卵も似て非なる産業構造なため、一口にこうするべきという突破口など存在しないと語ります。

 

遺伝子組み換え技術や農薬についても安全性に申し分はなく、使わない選択肢はもはや人類にない、と言い切ります。

 

果たしてそうでしょうか。

著者の丁寧な主張は本当に勉強になります。

しかし原発と同様に、遺伝子組み換えや農薬、私の分野で言うところの食品添加物はそれ単体での安全性には厳しい基準や検査や臨床試験が課されていますが、複合的な使用や長期間使用による副作用や弊害は人類にとって未知の世界です。

その世代には影響がなくとも数世代の後になにかしらの形で現れることは絶対にないと言い切れるのか。

生命とは動的な平衡であると福岡伸一先生は言いました。

遺伝子の操作やゲノム編集など、生命の設計や切り貼りを人為的に行う事による揺り戻しは必ずどこかに来るでしょう。それが一体どこに現れるのかは私達には想像出来ません。

 

例えば自然栽培の方法論には、作物本来の力を引き出し、寄り添う事で無農薬無肥料無除草剤を実現し、慣行よりも安定した収量とコスト削減が達成できていますが、それについては触れられていません。

 

私自身も畑をやることで慣行とオーガニックの違い、それぞれの長所と短所がなんとなく理解できて来ましたが、善悪の二元論で正義を語ればそこに悪が生まれます。

豊かさとは選択肢が増えることです。

戦後の食糧難から脱却し、飽食の時代を迎えて農業人口が減る中で、口に入れるものの本質論を当事者意識を持って考えなければいけない時期にあるのは間違いありません。

 

買い物とは選挙です。

 

自分が何を買うのか、何を選ぶのか、それは代替価値としての金銭ということではなく、自分や家族の明日を作り、日本の未来を作る一部分であると認識して日々の食事を考える事です。

そう、彼らは私たちなのです。