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2018年08月10日

また巨星が

逝きましたね。

 

 

合掌。

彼の料理は緻密で繊細、フェルメール的な写実派絵画のようでした。

 

 

その芸術を完成させるために、40席のレストランに50人もの料理人がいたとされるほどです。

 

 

私は氏の料理を食べる機会に恵まれなかったので、作ることは出来ません。

 

 

生涯を通じて、代表的なスペシャリテを持たなかったこともあるのかもしれません。

 

しいて言うならカリフラワーとキャビアでしょうか。

 

 

昔、ラジオか何かで言っていた事に、

私はジャガイモのピュレとグリーンサラダで三つ星を取ったのだよ、と。

なんてことない料理を真正面から本当に美味しいタイミングで提供するだけで三つ星に匹敵する料理になるのだ、と。

ジャマンの厨房ではスクランブルエッグだけを作るコックがいたそうです。

ひたすら低温で混ぜ続け、トロリとした火入れにるだけなのです。

ジャガイモのピュレだけを作るコックもいたそうです。

注文入ってから芋を剥き、カットして少し牛乳入れたお湯でジャストに火を入れ、火からおろして潰して裏ごしし、一気に芋と同じ量のバターを泡立て器空気を含ませるように溶かしこみ、火から下ろしたら二度と温めなおすことなく提供し、

 

 

そして、余ったものは使わず、別のテーブルには同じ事を繰り返すのだそうです。

 

 

それはバターの香りと芋の甘さがピタリと決まった絶品。

 

 

サラダには盛り付けた後、エストラゴンの香りが効いたビネガーを一滴上から垂らすだけで口に入った時の印象が変わるのだ、と。

 

 

彼の料理本を改めて開いてみると、その行間には、普段何気ない料理の見逃されていることをもう一度見直し、当たり前の手順に愚直に立ち返る事こそが大事なのだ、と言っているようにもみえます。

 

 

ソースの点々とか、初めて割烹カウンタースタイルを取り入れたとか、そういう事ばかりが注目されますが、ロビュションの凄さはここにあります。

瞬間芸術であるレストラン料理を徹底的に突き詰め、それを可能にしたストイックな統率力なのです。

 

それはクリエイティビティー溢れる作曲家と言うより、統率者、司令官、偉大なオーガナイザーですね。

自転車で言うなら有能なアシストをつけ、戦略的に確実に勝ちに行くエース。

登山でいうなら大規模なチーム登山で臨み、スマートにピークハントするトップクライマー。

汗と泥とウンコにまみれたアルパインスタイルのウチみたいな店でその偉大な料理を再現することは出来ないんです。

 

ロビュションという山は果てしなく大きい。

 

それだけに残念でなりません。